故人の預貯金の凍結について

以前、バーテンダーとしてお客さまの話し相手になっているとき、相続発生中の方や相続でご苦労された方がいて、相続の手続きで困ったこと、悩みを聞かせていただきました。

普通にお酒を飲みに来ていて相続の話をその店の人間と交わすというのも不思議かも知れませんが、BARにくるお客様は色々なことを話して、そして時には教えてくれます。

バーテンダーには士業の人間と同様に暗黙の守秘義務があります。

なので本当に色々な裏話や秘密、商売のこと、業界の裏話、昔の失敗談、一風変わった知り合いのこと、そして身の上話などを聞いたものです。

それらの中の身の上話として、相続に関し苦労話や失敗談、または武勇伝的に話されます。

今現在、行政書士として遺言作成や相続手続きを業務としてやっていて、以前聞いた相続時の苦労話や悩みごとが活きることが結構あります。

そして同時に聞いた時に「問題ないのだろうか」と思っていたことが一つ。

それは「危篤状態に陥った親などの預貯金を引き出す」ことです。


故人の預貯金は相続財産の相続先が決定されるまで金融機関から凍結されます。

金融機関が口座を凍結する理由は、相続財産が無制限に流出することによる混乱や争いの発生を予防することも含まれています。

口座が凍結すると、出金はもちろん入金もできなくなります。

口座引き落としもされず、定期収入として送金されていた入金も処理されません。

公共料金の引き落としや年金の受給も止まるということになります。

不動産賃貸の賃料や給料賃金、貸金の返済金や売上代金などの入金までもです。

それらが凍結して、現時点での預金も動かせないとなると確かに不便で困ります。

それで推定相続人などが事前にキャッシュカードを使用して預貯金を50万円ずつ引き出すという行為に至るのでしょう。


さて、この行為は法的にはどう解釈されるのでしょうか。

まず、金融資産は帳簿上の現預金と捉えれば流動資産で似た扱いですが、法律上は現金ではなく、金融機関に対する債権となります。

保有している口座の名義人が金融機関に支払いを請求することのできる債権です。

家族の預金債権であっても、本人以外の人が債権を回収する行為は正当でしょうか。

同意があったとしても、代理人として適格でしょうか。


また、実際に亡くなってしまって相続が発生した場合はどうでしょう。

生前に相続財産の一部である債権を相続人の一人が回収してしまうこと。

現金には名前が書いてあるわけではありません。

しかし、金融資産である預貯金は債権なので誰のものであるか明確です。

相続人が把握することが容易な被相続人の財産です。

遺産分割協議が成立して、相続人各々の相続分が確定するまで、相続財産は相続人全員の共有になります。

手続き上は、遺産分割協議書や相続関係を証明する書類等を揃えて、金融機関で払い戻しと相続分に応じた振込などを1営業日にまとめて行います。

不正や争いを避けるためであり、金融機関としても責任を全うするためです。


口座が凍結しても、協議が整う前に一部の引き落としは可能です。

金融機関の口座残高の1/3に法定相続分割合をかけた金額で1機関あたり150万円を限度に払い戻しを受けることができます。

例えば、被相続人の口座残高が500万円で共同相続人が配偶者と子供2人である場合。

配偶者は5,000,000×(1/3)×(1/2)で833,333円まで引き出せます。

子供2人もそれぞれ1/12の416,666円まで引き出せます。

被相続人の口座残高が1000万円の場合、配偶者は1,666,666円ではなく1,500,000円が限度になります。

被相続人が2つの口座に1000万円ずつの計2000万円の残高を保有している場合は、150万円×2で300万円まで引き出すことができます。

ただし、これは葬儀費用などの支払いのために民法上認められた権利で、この権利を行使した場合は引き出した相続人が遺産の一部の分割によって取得したとみなされます。

この権利を行使して必要以上に被相続人の口座から預貯金を引き出すのは問題です。

これが何が問題なのかというと、相続財産の一部に対して相続権を行使したということ。

即ち、「相続した」ということになるので相続放棄できなくなる恐れがあるということです。

葬儀費用や医療費の支払い、同居家族の当面の生活費のために必要があって引き出した場合、それらは民法上の先取特権にもあたりますので、無闇に使い込んだりせずに必要経費の支弁にのみ使用して、それが証明できるのであれば手間ではありますが相続放棄も可能である場合があるでしょう。


逆に運良く生き延びて相続が発生しなかった場合はどうでしょう。

それはそれで問題がありますよね・・・結局は意思能力が欠如しているときに無権代理人が本人の意思に関係なく権利行使したわけですから。

凍結を免れたからと言って引き出したお金をまた同じ口座に戻すでしょうか?


さて、よく考えましょう。

相続する預貯金が少ない場合は引き出す意味があるでしょうか。

葬儀費用にも到底足りず、数万円程度であれば引き出せる額も少なく、後の処理を考えたら得策ではありません。

逆に多い場合はどうでしょう。

必要となる費用分を賄い切れる程度に引き出せば十分ではないですか?

故人の債権などの資産はともかく、借金や保証債務などは死後に発覚する場合が多いです。

財産の少ない方は秘密の借金があったり、個人からの借金があったりもします。

財産の多い方も帳簿上では見えない個人からの借金があったり、断り切れずに保証した秘密の保証債務があったりもします。

保証債務も身元保証なのか連帯保証なのかで全く違いますし、物上保証(自分の不動産などを担保に他人の保証をしていること)なども家族は知らなかったということも普通にあり得ます。

普通に生活していてお父さんの持っている不動産の登記簿を確認するなんてことはそうそうないですからね。


刑法の観点からは、横領、詐欺、窃盗、背任にあたる可能性があります。

上記4つの罪は配偶者、直系親族、同居家族の場合には刑が免除されます。

ということは、同居していない傍系親族である兄弟姉妹や甥姪、相続権のない内縁者や、故人の面倒を見ていたに過ぎない使用人などであった場合はどうでしょうね。

悪質でもなく犯罪性が低ければ情状酌量なども含めて問題にならないこともあるでしょう。

他に相続人がいるけれど、いつも面倒を見ていた親切な人が故人に依頼されて預貯金を引き出した場合に後から相続人から横領だ窃盗だと訴えられて、事実を証明できなかったりしたら怖いですね。

後の手続きなどを考えるとやはり正当な手順を踏むべきでしょう。


急にどなたかが亡くなって、その後の葬儀やら遺品整理やら居宅の後始末やら財産状況の確認やら相続人の確認やらの手続きに困ったなら専門家に相談しましょう。

葬儀費用など金銭面で困窮しているのならば行政機関に相談しましょう。

どこに相談したらいいのかわからないときにはとりあえず行政書士ですよw


余談ですが、2日に1回は投稿しようと頑張っていますが、なかなか大変ですねw

行政書士事務所 ALL C's

「希望の種」を育み「不安の種」を取り除く ・自由に仕事をしたい ・会社社長になりたい ・事業を拡大したい ・後継者を見つけたい ・ハッピーリタイアしたい ・安心できる終活をしたい ・先の不安を相談したい あなたの夢の実現と不安の解消のために伴走いたします 山形県米沢市で活動する行政書士・事業承継士 渡部 忍のサイトです。

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