知的資産経営のススメ

知的資産経営という言葉をご存じでしょうか?

ご存じの方は勉強家なのか、それとも専門家なのか、はたまた才気煥発な実業家でしょうか。


知的資産経営は事業承継や経営改善などで非常に有効かつ重要な手法です。

ちなみに似た言葉で知的財産がありますが、そちらは特許権や著作権など発想や創作によって生み出され、客観的に換価できる財産的価値のあるもののことです。

それに対し、知的資産というのは換価計算の難しい、しかし経営資源としては価値のあるものを指して言います。


例を挙げると、バーテンダーの作るカクテルにはレシピが存在します。

同じレシピでも複数の名前のあるカクテルも存在します。

それは複数の作成者が同様のレシピで構築し、それぞれに市場に浸透した結果です。

国際大会などの大きな大会で受賞したカクテルはレシピと名前が固定されます。

作成者の命名した名前と構築したレシピが一種の知的財産と言えます。

換価できるものではないかも知れませんが、半ば公的に認められた命名権があり、後発の同レシピまたは近似のレシピの類似品は市場に認められるわけもありません。

また、カクテルを作る際に用いられる手法はいくつかありますが、確立されたマニュアルのある「技術」に他なりません。

しかし、中には特殊な手法、常人には到達できないコツを掴んで他のバーテンダーには真似できない成果を出す方もいます。

その技はまだマニュアル化されていない、個人に属した「技能」なのです。

また、お客さまに対する接客応対の話術や所作などもそのバーテンダーを形作る「技能」と言えましょう。

他にも多様なバーテンダーはいるもので「切り絵」や「占い」や「独特の人柄」などで評価を高めている方もいます。

「技術」や「技能」もしくは「個性」などもまた経営資源と成り得ます。

それら換価評価することが難しい経営資源のうち、事業上価値のある、主に人に属したものを知的資産と呼べましょう。


それら知的資産の価値を認め、属人的な「技能」を切り離し、伝承可能なマニュアル化した「技術」にし、それを伝承していく教育体制を整え、構造資産とする。

これが知的資産経営の考え方です。

そして、秘匿すべき部分は秘匿し「秘伝」「内部機密」とし、固有の資産とします。

逆に明かせる部分は外部に明かし、自事業の価値、継続性、独自性、成長可能性などを喧伝・示唆することによって客観的評価を高めるのです。

それによって得られるものはというと、まず取引先からの信用と信頼、同業他社との差別化、新規顧客への宣伝効果、知的資産経営によって裏付けられた事業計画とそれに出資・融資を促す資金調達力、経営者保証の解除、経営基盤の信頼性の向上による後継者立候補者、それらから事業そのものの安定性・持続継続性・成長発展性が向上します。

そして、もしもM&Aなどで事業売却する際には換価価値も見込め、売却価格を引き上げるというものではないでしょうか。

他にも色々と恩恵があるかも知れませんが、ぱっと思い付くだけでこれだけあります。

それに対して負の側面はあまり思い付きません。

強いて言えば、マニュアル化の手間と困難さ、そして時間と経費などのコスト面でしょうか。

事業承継士として、知的資産経営コンサルとして、企業軍師としては知力の見せ場です。

その「知力」もまた知的資産なのですけれども。

即ち、コンサルティングとは知的資産経営の塊であると言えましょう。


属人的技能や個性と言った部分はマニュアル化するのがものによってはとても困難です。

余人には到達できない技能を持った人は伝説として語り継がれていくことになります。

伝説にしか成し得ない偉業は承継できるようなものではありません。

挑戦することに価値はあるかも知れませんが、必要となるコストがあまりに多大であれば敢えて臨む必要もないでしょう。


日本の伝統芸能や伝統工芸といったものは長らく属人的技能や技術を長年の師弟関係から口授や見取り稽古によって伝授していくというやり方をしてきました。

近年、日本刀や陶芸など伝承者や後継者の不足によって廃れつつあります。

また、企業や事業の存続寿命が最も長いのも日本です。

日本には数百年続く老舗というのが全国に数多存在します。

実は知的資産経営について最も先進国なのは日本なのではないでしょうか。

戦後の人口動態や世代間の常識の差異、時代の変転などの影響によってたまたま事業承継の停滞という問題が起きているのではないでしょうか。


時を逆行させることは不可能だが、過去から学び、未来へと繋げることは可能でしょう。

何もかも伝承する必要はなく、可能なものに絞ってひとつひとつ確立していく。

そうして積み上げていけば、更なる発展が望めることでしょう。

行政書士事務所 ALL C's

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